短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

モンク帽1

かなしいずぼん

かなしいずぼん

  • たま
  • J-Pop
  • ¥250
お気に入りのモンク帽を失くしてしまったかもしれない。
モンク帽とはセロニアスモンクが冠っていそうな帽子のことで、僕が勝手に手前勝手に捏造した文句ゆえ誰にも伝わらないことは自明、ただ僕からしたらモンク帽と非モンク帽の違いはまた自明、驚くべきは周囲にモンク帽冠者のあんまり少ないことで、かといってそのモンク帽冠者が巷に溢れていたら異様過ぎるとして、そのわりに結構いろんな服屋帽子屋にモンク帽がひょっこり存在することだ。
モンク帽をうまく説明することはできそうにないというか面倒なので簡単に言うと、頭に吸着しているような帽子であるように思う。タコがテトラポットの先に乗っているように、頭にはまっている。さらに補足するなら、帽子を冠っていると見せかけて帽子にかぶりつかれているイメージ。つまりは人と同化しているように似合っていることなのかいうと、それも確かに大事だけれど、それだけでは確実にない。かたちにおいて言及するなら、
ツバはあっても最小限、深刻でない深爪くらいであるのが好ましい、つまり、野球帽とはほど遠い。すなわちキャップは非モンク帽。
編み物の帽子の場合はモンク帽もあるにはある気がするが、出来たら頭を吸い上げるくらい小さめのサイズで折りかえしつき、頓狂な、かといって派手すぎないボンボンが頂点についていたら、尚いいと思う。
山高帽子すなわちハットもモンク帽ではあるにはあるのだけれど、これは個人的に似合わないので、似合う方はこれをモンク帽にしたらいいと思う。ただ僕の知る限りハットをモンク帽化しうるのはセロニアスモンクだけである。ただそれを言ってしまうと話がわやになってしまう。
結局、説明は増長になってしまうがモンク帽はだいたいのところそんな感じだ。
そこで具体的に僕が選んだモンク帽はツバのない折り目のついた質の良さげな紺のボア生地でできた浅い折りかえしがついているやつだった。頂点にはなにもついていない、下から見た東京ドームといった体。たしか去年の有馬記念の前日に、急き立てられるようにモンク帽のことだけを思い、前のめりで街へ出、カシラという帽子屋で案外すぐに見つけて、即買い、しぼりをきつめに調整し、頭に嵌めた。その際値段は見なかったし、嵌まることはわかりきっていた、そんなときも生きていたら時たまある。実際筆舌に尽くせない安堵感を得、うれしくなってモンク帽のことがなんとなくわかりそうなKくんのたち働く木屋町の汚いジャズバーに見せびらかしに行ったものだ。客は誰もいず、うなだれていたKくんは、僕が入るとのっそりとたちあがり、おっす、と格別嬉しそうでもめんどくさそうでもない低い声で言った
「どうこれ、モンクっぽくない?」
と、僕は初めてあつらえのジーパンを買ってもらった中学生みたいにはしゃぎぎみな心持ちで、言った。Kくんは格別嬉しそうでもめんどくさそうでもない調子で、
「あぁ、言われてみれば、そんな感じしないでもないな。たしかに、、せやな。そんな感じやな」
そんなリアクションが僕は好きなので、好ましい人以外にあえてまでモンク帽がモンク帽であることを説明しないわけだけれど、気づいてくれたらそれはそれでうれしいモンク帽を東京くんだりまで来て失くしてしまったのには酔っ払っていた以外にも理由がある気がなんとなくしているので、しばらくそれについて考えてみたい。なにせ僕はこちらに来る前に、モンク帽の存在に依存しきって、10年ぶりくらいに丸坊主にしたばっかりだったのだ。