短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

モンク帽2

See You Again

See You Again

  • Jesus Fever
  • ロック
  • ¥250
よくよく思い返していると、意識が、僕が今しがた決めつけたモンク帽の定義に反発しているように、ある野球帽を冠ったピアニストを思い出させてくる。
前言撤回である。
彼は京都にいて、たしかに、モンク帽冠者で、それに僕とちがってピアノを弾くことができる。
ピアニストとピアノの引き合わせにマッチングアプリは必要ないみたいで、僕の喫茶店が森からピアノを引き取った次の次の日くらいには、ピアニストは奥さんと息子を連れてやって来て、さっさと試奏し、演奏の日取りを決め、その二ヶ月後には店を満杯にしてしまった。
演奏会は朗読つきで、凛々しい顔のお姉さんが曲間に、
とある薄暗い美術館にいて、そこには自分以外誰もいない、、
私は一抹の寂しさを感じながらも、一点の絵をいろんな角度から、さまざまな記憶と共に、時折少し黄ばんだようにみえる白い革のクッションに身を横たえなどし、どれくらい時間を費やしただろうか、観賞している、、
その絵は、、
と、とつとつと語って、ピアニストがその語りに注釈を加えるように交じって、弾きだして、客はうっとりしているようで、僕は引き揚げたコーヒーカップを水をちろちろ流しながら慎重に洗っている、ただ楽器の音がないときよりもあんまり静寂なので、ときどき敢えてがちゃんとコーヒーカップをぶつけたり、さしさわりのないくらいに、水の勢いを強くしたり、していたら、まだ小さいピアニストの息子は当然うるさくしだしたりもするから、彼の奥さんは毅然と息子を抱え、共に退出する、明け閉めで生まれる音に細心の注意を払っている気配がまるで音楽なので、少しばかりはまりの悪いカップとソーサーもまた、かつりかつりと、ほうぼうの席で不規則に音をたてたりし、換気扇の音にいきなり気がついたりもして、びっくりする。
つと、換気扇を消して、
もし、その時に戻れたなら、僕は赤子に向けて回転するだろう。
とにかく至近距離まで移動し、呆気にとられる夫人を見て見ぬふりし、赤子に向けて、ただその位置で、回転する。
というのは、セロニアスモンクはピアノができて、また回転もする。
ピアニストはピアノを弾く。
詩人は滔々と詩を詠む。
そうすると僕には回転するくらいしか残ってないだろう。
それに回転するのは、けっこう楽しいのだ。三半規管は正常なので目が回る。
そういえば最後のティンという一番高い弦の音はもしかして、Fin.のことかと今、合点がいった。
逗子の南にて。日向ぼっこしているりりすけと一緒に。