短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

東京日記3

正午前にふらふらと北沢二丁目のコーヒー屋に来ると、喫煙ができる外のベンチ席五つはすでに満席、せっかく快晴なのでちょっと待って、先客が腰をあげた隙にすべりこむように着席、一服していると道路向かいでピンクの長髪のお姉さんがガーリーな古着屋の開店作業を始め出していて、そろそろ正午になることがわかる。

店の外にはカラフルな子供服とかも陳列配置され、バーズなんかが極めてソフトにBGMとして流れている。慣れなそうな若いカップルがランチを物色、行きつ戻りつしていていて、ボーっとしている人もちらほら、六十年代ソフトサイケがことさらにソフトになって既に溶けているが、そこの二軒どなりのコチラはモノトーンのしゅっとしたセレクトショップで、先程入店前の店員さんがカフェラテをテイクアウトして行った。

いかにも日傘くるくる僕は退屈状態。しかしながらオープンなコーヒー屋にて常連風のおじさんと店員の兄ちゃん、手慣れた感じなのでもしかしたら店主かもしれない、の会話を聞いていたら、明日はどうも雨らしく、気温も十度くらい下がる「明日から寒くなりますねー、温度差で!」みたいなので、今日はこんな感じでいいかもな。

ガーリーな古着屋にもガーリーな客が疎らに入り始め、こちらの喫煙席では常連とその他との席取り争いがにわかに表面化しつつある。こちらのちょうど向かいにあたるベンチ席が空いたやいなや、私同様すかさず滑り込んだ女の子友達ふたりを、小型電動自転車で滑り込んだ中年の常連らしいおじさんが、まるで二塁への盗塁タッチプレイを僅差で決めたみたいに「ここ、俺の特等なんですよ」と言って自己申告セーフ。荷物を置いた。私が二塁審判だったとしたら判定は完全におじさんアウト。

だってさすがにどう見ても、彼女らが先に着いていたよ。おじさんは小さいショルダーバックを担保にいけしゃあしゃあとアイスコーヒーを注文し、何食わぬ青白い顔で着席、マルボロを一服し始めた。二人はものわかりがすごくよく、すごすごと禁煙席のベンチに移った。おじさんより先に飲み物買ってたのに…

そのへんはおそらくこの店では日常茶飯事で、店主の采配は、客のいさかいに対して【とりあえず無視】という態度で、そもそも飲み物の注文に加え、焙煎のオーダーにも即対応をワンオペレーションでこなさねばならないことになっているわけだし、きわめつけにフレンドリーに、また違う常連のおじさんのよもやま話に耳を傾け軽口を叩かねばならないし。

風通しのいい店、とはいえ都会の社会の縮図、もし私が店番だったら完全にオーバースペックだ。完全放置に徹するか、感情的になり私情でもって客を匿ったり追い出したりするだろう。改めて私は今となっては、社会的ではないなあ、店勤めは私にはできん、と思った。

ぼんやり観察してるまに小型電動自転車の青白い常連風のおじさんはさっさと去って、待ってました!て感じに先程の二人が禁煙席から移ってきた。なんか安堵してる風で、よかったねえ、と思った。すでに彼らのアイスコーヒーは半分以上なくなっていた。

そんなん観察しながら正午の恩寵みたいな太陽を、ビニールのパラソル屋根から浴びながらリラックスしていたら、私のコーヒーカップは空になっていて、二杯目頼もうかなあ、と案じながらタバコを咥えていたら、店主に「すいません、喫煙席は時間制なんで!」と軽やかに戒められたので、すごすごと踵を返さざるを得なかったわけで、誠にいかんではないです。はい、出ますって感じです。

都会の社会はちゃんとしとるわあ、という感慨が深い。