短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

東京日記7

やっぱり悪い予感は当たってしまうものでしんや君に借りたチャリは新宿三丁目で撤去されていた。撤去ならまだいいが、なぜか施錠用のチェーンだけが歩道のガードにぶら下がっており、もしかしてうっかり鍵できてなかった?最悪盗まれているかもしれない。珍しく急いでいたので。ともかく新宿三丁目はまじで信用ならん。この出来事は自己分析によれば、日曜になけなしの六百円を賭けて当たったマーメイドステークスの配当五千八百円の引き換えだ。おかげで友人のライブの打ち上げ(大久保のまじで緩いネパール居酒屋)にも行けて楽しかった、鋼の錬金術師の言葉を借りれば等価交換みたいなもので…いやがおうにも再認識してしまうが、とにかく人生はプラマイゼロだなあ…どっちにせよしんや君すまないねえ…

それで、仕方なく下北まで歩いて帰ったんだけど、これが案外よかった。二時間くらいはかかったのかもしれないが、夕暮れ時、初台、富ヶ谷、代々木八幡とゆるいアップダウンが続く広い歩道をちんたらちんたら行ったら、全くのノンストレスで中目黒に着いた。富ヶ谷らへんで黒い山いちごの木があって採って頂いた。都市のささやかな芳醇。中目黒に着いたら目黒川が池尻まで流れているので、流されるように行けばいつの間にか緑道に着いている。散歩は気分次第で漂流だ。最初から歩いて行けばよかったと思った。ここ一年以上チャリに乗っていなかったので、チャリとの関係性が疎遠になっていたというか、チャリ運が知らぬ間に失くなっていたというか、ともかくしんや君すみません。私の不注意です。

今日の昼食は麦ご飯、麩入りの味噌汁。

さあ、縁起でもないコトをつらつら書くか。

ソロモンクを聴いてゴミを出して散歩。

代沢から池尻の方へ緑道を行き工事中の三宿の手前で枇杷を取って食って沿道のとりどりの花で悪い目を保養し、首都高のところまで出ると、やたら現実味のあるタバコ屋があり開店前ではあるが、雑然とした細いスペースの中に灰皿が合計三個とコーラの自販機が設置してある。出勤前の人々が忙しなく朝の憩いを済ましては行き、済ましては行く。私も私で何気なくソコに混じる。散歩の小休憩ポイントそのイチがソコで、ついでに目黒区のタウンワイハイを引っかけ、インスタにみっともない写真を上げるのを日課にしだしている。一応の生存報告のようなものである。

先日そんなナニをしていたら楽器を背負った大学の一個上のOさんに見つけられてびっくりしたりした。二、三年ぶりだろうか。お互い元気そうでよかった。やっぱり生身の再会がいちばん、確実にいい。

そちらで朝の現実的な連絡を取る。念願の初バイトを控えて、先方に連絡を入れて、三軒茶屋の方へ向かう。

首都高に上下を並行している下道はナニ通りだ?とにかく明後日の渋谷方向へのバスが分刻みでてんやわんやになっている時間帯で、押し寄せる中学生だか高校生だか女子大生だかをすり抜けるように歩く。全員マスクをしていて集団連行されているように見えなくもない。意志を持たない、腸を怒涛のように流れ落ちる消化物みたいだ。たいてい決まって地下鉄の入り口にしなだれ落ちていく。だとしたら私は未消化、逆流していく付着物の無い酸性のきつい胃液かなんか?どの道ろくなもんでないけれど三軒茶屋の交差点に出る。

そこで白けた人工の滝が地下に流れ落ちているのが見える地上の青空喫煙所があって、そこからやたら音のでかいハイビジョンが見える。矢沢永吉の広告がばあんと張り出されているが、キンカンのコマーシャルが嫌がらせのように流れては、人工の滝もちろちろ流れ落ちていて、水流が運んでくる風が気持ちよくなくはない。こちらはすり鉢状の東急電車への降り口で、滑り落ちて行く人はおおむね上品そうに見える。小休憩ポイントそのニである。

それからローカル感がたまらない、めちゃくちゃ活気のある八百屋などがある太子堂の方へ向かい、緑道に突き当たって代沢へ戻るわけだが、その後ラインを見ると今日のバイトは先方の都合で流れてしまった…

正午、金欠につきしんや君にあげたはずのホワイトアルバムとモンクのアンダーグラウンドディスクユニオンで売り飛ばし、正午過ぎ、好きな喫茶店でなしくずしの死の続きを読んでいたら、主人公がブルゴーニュの森でバッドトリップしていて、新しい研修のバイト君が入ったらしい喫茶店Tは昼下がりにかけて、だんだん混み入ってきている。もう出る。ここはもう、風待ちだ。