短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

東京日記1

KYOTO/TOKYOは分かりやすくアナグラムだけれど、東京都が東の京都だということには、ここ最近まで気がついてなかった。全然違うかもしれないけれど、それは東松原と松原の関係と字面の上では一緒じゃないか。縮尺の違いはあるがともかく、京都を起点にするとJRで姫路まで行くのと同じくらいの値段で、夜行バスで東京に行ける。

東京に着いてから、代沢の緑道を散歩していたら、昔つくった三拍子の歌を思い出してびっくりした。引き出しは確か夢だった。小川のほとりの真っ青なアジサイのかたまりを往来が通りすがり、申し合わせたようにケータイに収めていく。

【モーニングだ 夢をみた

 真冬の世田谷で

 いとこもはとこも

 ひねもす草鞋を編んでいて

 困ったな 困ったな

 お茶さえ出してくれない】 

 ほぼFとCの稚拙な歌だった。

三拍子の権化といえばボブディランだと思われるが、私は当時二十代前半か、世田谷にもボブディランにもピンともポンとも来ていなかった。というか、まったく知らなかった。今朝方、戯れに裸眼で動いているせいもあり、梅ヶ丘あたりで方向感覚を失い、途方に暮れながら思い出した。いや、それは嘘だ。文字面では確かに途方に暮れていたかもしれないが、心情的に途方に暮れてなどいない。こんなことには慣れ慣れなのである。時間のことはまるで無視、すんすん迂回して代田の方から下北沢にたどり着いた。下北沢に着いたら着いたで漠然と、好きな喫茶店がある南の商店街がどちらの方か、漸くではあるが覚えている。そこから王将を通り越してバーミヤンを通り越せば、代沢の緑道が目に入って来、ようするになんとか戻って来たわけだ。漠然と、その逆の方に行けば巻きタバコが売ってるタバコ屋もあるのも知っている。

まあまあ最近の以前、浄土寺の古本屋で九十七年くらいのミュージックマガジンだかクイックジャパンを立ち読みしていたら巻頭で、フィッシュマンズのS氏がインタビューに答えていて私はいたく感動した覚えがある。

「いやあ、基本なにもしてないっすね。ここらへんの店の定休日、俺ほとんど覚えてて。今日は木曜だし、東南口のカフェが休みだな、とか思いついたら、そこまで行って、シャッターの前に一日しゃがんでボーっとしてる。往来を見てたり見てなかったり。そういう時間が一番好きなんすよ」

みたいなことを言ってた。まじで反社会的だな、と思って、こちらの方に来ようと思った。そんな光景を今更期待しているわけではさすがに無いんですが、平日にもかかわらず朝の喫煙所周りが吸い殻に空き缶にゴミだらけでけっこう落ち着く。こないだ安いメガネが壊れて、おおかた裸眼で過ごしているので人のことは良く分かんないんだけれど、緑道を歩いていたら、縁に咲いているオレンジや紫や赤っぽいビタミンカラーの茎がひょろひょろした花々が視界の向こうから、やや白けながら、その発光色だけ鮮明に、揺れているのが印象的で頭の中がぼんやり印象派です。

それに、ここいらでは犬連れの人達がかなりフランクに犬と犬とを接近させ、じゃれ合わさせていることが多いことに気付いて、びっくりしている。

京都ではそんな光景みたことなかったし試みたこともなかったので。