短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

特異日

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 昨日はタバコ屋のイベントがあるので気のいい仕事先の同僚におねがいしてシフトを替わってもらった。

 半年くらい、何がなくとも早起きする、という扶を自分に課していたし、それに慣れていたつもり、睡眠四時間半でイケます!など周りに吹聴していたけど、春樹さん風にいって泥のように眠る他なかった。

 アウトオブリズムは些細なことから始まる。

 起点を探すとどうしても前世をひょいと通り越えてキリがないのでなるべく最近、、

 朝一番の白湯とキウイを粗雑に食うようになってきた。

 そのあとの朝風呂で股間を石鹸で洗うのを端折った。

 そもそも深夜に帰って親たちの残したごはんを畜生みたいにガツガツ食い過ぎる。

 深夜、畜生みたいに残飯を食い荒らしたあと、追い焚きした風呂に浸かる前に一寸ふとんに転がろうと身を横たえたら上着着たままそのまま寝ちゃう。

 睡眠時、消化にエネルギーを使い過ぎるのか、ちんたら寝ちゃう。

 睡眠時、足がつる。

 睡眠時、スカスカな夢しかみない。

 朝一番の白湯とキウイを粗雑に食うようになってくる。

 やっぱり些細なことほど、ぱちぱちパンチみたいな渾身のギャグみたいに敬虔に取り組まないとあかん。

 救いとギャグは人に求めたらいけん。

 有史いらい古今東西偉人変人全部おのれが厄災なのでした。

 ハードリラックスを基盤にしたマイペースを維持することの難しさ…

 とはいえなぜ自分のとんちきには慣れっこの自分が、たかだか一日遅起きをしたくらいで、へんな自戒に至ったかといいますと、その昨日、滅多に連絡のないNから昼飯の誘いがラインで入っていて、それだけで自分の中では逐一の特異日

 空間でいったら特異点

 料理でいったら給食で忽然現れた、たけのこの木の芽あえ(小四か小五の時、一回だけ出てきた)。

 で、ただ単純にめっちゃ嬉しい、ってだけではなんでかしらんけど、ない。

 なんか慮外のことが唐突に起こる予感が退けられない。

 不穏とか凶兆とか後ろ暗いたぐいのコトとも感じられないから、余計ややこしいといえばややこしい。

 経験則によりリスクヘッジをかけ回避という選択肢がないからだ。

 これは客観的にみると、もしかしたら飲み屋で人ごとの恋煩いなどを横耳に聴きながら感じる、あほちゃうか、っていうそれかもしれない。

「好きすぎて辛い!」みたいな。

「某のこと考えすぎてどうしたらいいのかわかんない!」とか、折々あほちゃうか、思うてたけど、、

 リターンですな。

 そんなNをこちらのペースに落とし込もうと、老舗のパスタ屋に誘った。こちらの予定と同線に都合がいいからだ。

 ラインを一報、打ちっぱなしで進む。

 俺はワイファイ乞食。セブンイレブンセブンイレブンを目的のラインに合わせ、一言ボヤいたら夢想無念でしばし歩く。

 正午前の鷹揚な南風が鼻から後頭部にスウぅと抜けていく。

 閑話。

 汚くて心地よい木屋町のジャズバーで雇われバーテンをしているK君は言う。

「まあ、けっきょく丹田やな」

「それ、白隠っていう坊さんも言ってたなあ」

「へえ…知らんけど…

   まあ、でも座禅とか、近いんやろな」

 Kくんは巷では引く手あまたのスーパーマイナージャズドラマーなのだけれど、師事してるドラマーが丹田を意識してドラムを叩く人らしく、それもあり丹田のことを普段から意識しまくっているようです。

 かくいう自分も疎開以降、呼吸を意識しまくってちんたらしていたら段階的に、意識が自然と丹田に行きつかざるを得ず、もしかしたらこれは…

という確信を得、そわそわぼちそわかしていたわけで、なんというかシンクロニシティ

 しかもシンクロ対象が普段下ネタしか言わないスーパーマイナーヒモジャズドラマーのKくんということもあり、なんだか嬉しい。

 下ネタしか言わないがKくんの姿勢はいつからか素晴らしい。

 アゴが後ろ斜めの上空からスウとヒモで引っ張られてるみたい。

 半笑いでもベロベロでもぎりぎりのラインで毅然としており、時折思い出したように肩を緩慢にぐにゃぐにゃ回して(おそらくや)背骨の座りを調整している。

 そんなんでいながら、

「こんぶくん、オナホール使ったことある?

 あれ、めっちゃええで」

とか、そんな話ばかりする。

「騙された思って、まじでいっかい試した方がええで…」

 何事でも一回、試してみるの大事だよね。

「せやけど温めたこんにゃくでもいけるらしいな」

等々、日々伝え諭してくれるKくんを僕は尊重している。常軌を逸しているくらい尊重しているし、歩きながら彼のことを思い出すと、つい吹き出し笑いをしてしまう。

 姿勢のいいアホは最高だ。

 場所を選ばず、どんなときも、フトよぎれば即笑える。

 休題。

 川端丸太町上がるのセブンイレブンでワイファイを拾うとオンタイム15分前にNからのラインメッセージが届いていた。

〈最近小麦あかんねん〉

 私は半笑いで動転した。

 相変わらずシンプルにややこしい奴やな。

 ややこしいけど、嫌な気分じゃないのが謎だ。

 たちの悪い話、相手が異性だったら一発でレッドカード、無視して一人で汚いジャズバーに向かっただろう。

 けっきょくNのペースにあっけなく呑まれている。

 こういう時、たいていあとから気付くのだけれど、相手を勝手に尊重して普段寄り付かないようなオシャンな店に行くと最終ロクなことにならない。

 実際、Nを誘い待ち合わせた御所南の小さい蕎麦屋の蕎麦は美味しかったし、Nにも会えたし、清々しいような気分にはなった。

 Nは少しくメニューを悩み、けっきょく薬味がぜんぜんのってない潔よさそうなかけそばを頼み、私はぐいのみ酒とざるそばを頼んで、たまにはこういうのもありかもね、分かりやすいイナセなムードっていうか。

「最近、酵素玄米しか食ってないんやんか」

と、Nはいった。

「で、調子ええの?」

「まあ、ええな。

 ただ、たまにええかなって思って違うもん食ったら、やっぱなんか調子悪なんねんな。うすうすそんな予感はしてたんやけど」

「そばなら大丈夫やろ。せやけど徐々にジャンクを取り入れんと隠者になるしかなくなってまうで」

「せやなあ…」

と、薬味のまったく入っていないイナセ風なかけそばを意味ありげに食うN。

 おそらく、ここらへんからマイペースが狂い、Nの関心を惹こうと久々の市役所よこの古本レコード屋に連れて行ったら、どうも、レコードをジャケ買いしてまうことには、たばこ屋のイベントで邪念しかないかけ回しをしてしまって、その日の晩、店主の顰蹙を買った。

 客は仕事前のKくんしか来ないし、誘っていたNもやはりというかなんというか、

「なんかめっちゃ眠いわ…

 やっぱりソバがあかんかったかな…」

ていう文面をよこし、その夜再会することはなかった。

 それからまた改めなおしてっつうか、そっちはどうだい?うまくやってんの?こっちはそんなんどうにもならんよ、邪念と丹田行つ戻りつですわ…