短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

モンク帽5

웃어, 유머에

웃어, 유머에

「ビギナーズラックはそろそろおしまい」と 居住まい正す わたしの神様
(土門蘭「100年後 あなたもわたしも いない日に」より)

三月某日、暴風のち寒の戻り、八十田の家で起き、某六曜社のコーヒー豆をごりごり挽いて、淹れる、豆は万里を越えている、という寝覚めのぼやけきった、感慨。山口百恵「さよならの向う側」がつけぱなしのラジオより流れる。土門さんの詩集をパラパラ読む。じんわり来、冷えたピザを一片いただく。ホットカーペットが、ついている。

居間の棚から、その詩集を抜き取るとめざといさよ子は、つと反応し、
「蘭ちゃん、ええよなぁ。大学時代、彼女のブログいつも楽しみにしててん」
と、言った。
「やっぱコーヒー淹れる人で全然違うなぁ。なんか重たいわぁ」

ナイスショットコーヒーの立ち上げどき、内装工事中から烏合の衆はかのイ・ランに夢中で、みんなでハミングしているファファファファファファファファティティティティヘヘヘヘヘヘヘ、、(笑え、ユーモアに)
そんな感じでもとより汚かった店舗は浄化されていったわけで、非常に、すでに、こればっかしは懐かしい、匂いが昨年の終盤と全然違った2017年の春のこと、僕はなまじっか、数えきれないくらいコーヒーを淹れているので、何度淹れてもあきないのだが、コーヒーばかり淹れていたら飯を作ってもらっていたスタッフに愛想をつかされてしまって(それだけが理由じゃないし、結局は人徳のなさに尽きるのだけれど、)、排水はすぐに詰まり、不浄になっていくのは一瞬、神様ごっこにも厭きてしまった、というか神様ごっこを聴くと、元気なパキラとサボテンと楽しい時間がまざまざと思い出され過ぎて、余裕なくしては聴けない、それを今、八十田に持ってる?と尋ねたら、ちょうど入ってんで、と言い、すぐに神様ごっこは流れだし、聴いている次第いささか感傷的になっていて、泣きそう、いい友達を持ったものだとシャイニングしている。八十田は、あぁ眠い、どうもオレ、春はあかんわ、と言っている。
「伊佐野、ラーメン食うか?」
音楽はピーターアイバーツに替わっている。曇天である。

コーヒーつながりでいえば、こないだ能口とアタシちゃんと舟田と僕で目黒あたりをちんたら歩いて駄菓子屋とかギャラリーとか、アーバンでインダストリアルなホテルの屋上とか、冷やかして、晴れていて、風はごうごうと吹いていて、薄い雲が交錯している。咲き乱れるミモザにアタシちゃんは声高くミモザを呼び、住宅街に落ちているゆずをみなまで食った、まるで保坂和志氏のプレーンソングみたいだなと思っていた、それが口をついて出ると、けっこうちゃんと、やっぱり能口とか舟田とかすぐにある程度似た情景を頭に持っているので、あぁたしかに言われてみればそんなかんじやなぁ、とかさして面白くもなさそうに答える感じが、嬉しくもあって、鳥が鳴いているコーヒー屋へ入ったら、これはまるで京都のエレファントカシマシコーヒーのまるぱくりなので、これはフランチャイズ料をきっちりもらっているのかいな、と余計な心配をしてしまうぐらいまるぱくりで、そのへんの事情に明るいアタシちゃんに言わすと、「せやけどめっちゃがんばってんねん」
なので、それ以上のことは言えなくなるが、エレファントカシマシコーヒーの表面だけまるぱくりで、コーヒー豆の種類に紅茶のバリエーション、ナイソーの雰囲気とか、核心は全然、ついてなくて、コーヒーもそりゃ豆がいいんだろうし飲めるけどサンマルクのがうまい。エレファントカシマシコーヒーの肝は店主の千利休みたいな大体躯のH氏が象みたいにどーんとしていることだと思っているので、むしろ、全然違う店にすればいいのに、ただあたふたしている、無論生活を維持しないといけないだろうから下手な手は打てないのだろう、それはなんとか理解できる、相手は大人だ。実際女の子がたくさん来ていて、なんとなく繁盛している、ぼくは重たくないマンデリンを飲んで、こなくそと思って回文をつくった。

【知る杏里天満出て マンデリンあるし】
【滑空ユキノックス 靴の窮屈か】

ユキノックスは緑茶にプルーンかなんかが入っているしゃれたお茶で、かの千利休の発明品である、否、能口が頼んで、
「これは当たりや!」
と、快哉をあげていた記憶がある。
たしかに、それが当たりだったと、心で同意したよし。


ナイトクルージング

ナイトクルージング

新宿駅のベルクからJR への動線上にしれっとカシラという帽子屋があるのはさすが物欲をひたすら刺激しつづける物流の街TOKYO―SO FASTモンク帽があるにはあるけれど、それはそう颯爽と春物ラインに入れ替わっているので、わたしのモンク帽はそりゃないわな、アイワナビーアスプリングモンクボー、ひとつ満を持してぶちこんでみようか、と初体験の後楽園ウインズに踵を向けた、というのも前の金曜日に地下鉄で横に座っていたおっさんが競馬予想紙を黙々と読んでい、盗み見するとシャイニングした、中京5Rの障害戦マイブルーヘブンという馬が来ると。中穴で低く見積もっても単勝10倍複勝3倍はつくはずだ。それにつけて、未経験の賭場では一種のビギナーズラック的現象が起こりやすいという経験則があるので、勇んで単複馬券にぶちこんだものの鼻差で四着、頭に血がのぼってしまってあとは地獄下り、かつてないくらいアンシャイニングしてしまって何を買っても裏目に出たミモザイエローもミヤコスマイルもアタミもことごとく滑り落ちていった俺は水道橋に沈んだ、またTOKYO に当てられてしまった。
「トーキョーヤバイ トーキョーハヤイ」(能口作詞 東京より)

さりながら今回ばかりは沈んでばかりもいられないので、新宿にある、昔自分でやっていた出張おでん屋に名前が良く似たしにせの居酒屋に三回通って、極めつけは入れ違いでキョートに戻る舟田に奢ってまでもらって、なんとか試用してもらうまでこぎつけたところである。舟田、まじサンクス。
ともあれ業というかなんというかイカにもキツそうな厨房スタッフしか椅子が空いてないらしいので、ままよ業をのみ込むでしまおうか、と思ってはいる。
結局しばらく修行僧だな、、
モンク帽とはほど遠い、、
プレーンソング (中公文庫)