短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

早起きをせねばならんという夜に夜更かししてまうやろなて予感

フレンズ・アゲイン ~ FRIENDS AGAIN ~

フレンズ・アゲイン ~ FRIENDS AGAIN ~

  • FLIPPER'S GUITAR
  • ロック
  • ¥250
狭い街にかれこれ十年以上住んでいるのでチャリで人目を憚りながら走っていたとしてもだいたい知り合いを見つけてしまうものです。なぜ憚っているのかというと、やはりうしろめたいような行動を自分がしておるという自覚を持っておりまして、しかしながらそれはほんとうにうしろめたいような行動なのかしら、という自問自答のせめぎあいに息苦しくなって、結局ソトの空気を吸いたい、と思っていざ走り出したところ、百万遍の裏道でサボテン屋の奥さんとすれ違って目が合って一瞬のことだけれど、不覚だったという表情をしてしまい、なぜ不覚なのかと言いますと、すぐに噂が立つのが容易に想像つくからで、まずサボテン屋の旦那に今日昼間××君とすれ違ったよ、あぁ××さんか、そういや最近見いひんなぁろくな噂聞かんけど俺があげたサボテン大丈夫やろか、たしかになんか逃げ去るように去っていかはったわ、息子さん元気やろか、というような他人事のようなしかし人情味があるような会話が想像されるし、奥さんは以前の僕の同僚の所で働いているからそちらに噂が広まったらそこからあちらへ妙な不穏な感じで飛散したり、、多少気が滅入るというか、サボテン屋夫婦とは特別ちかしいという間柄というわけではないにしても一方的な好感を自分は持っていまして、それはどういった好感かといいますと愉快なサボテン屋だしサボテン売れてたらええなぁとかいう軽薄なよそ事みたいな希望を伴った好感というか、それはどんな知り合いに対してもそうなんですけど、あの居酒屋のおっちゃんにしても、貸自転車屋のバイトのおっちゃんにしても、ビラ配りしてるおっちゃんにしても、と思い浮かべるとやたらおっちゃんばかりだし実際おっちゃんとすれ違うとその瞬間はお互い意表を突いていて、認識するかせんかの刹那脱け殻みたいな表情をしていて、はっとなるのはもしかしたら自分もこんな脱け殻みたいな表情をいましがたしていたかもしらんという意表を突かれるから、だとしたらあまりに無防備で、希望もくそもなくて、なんとなく目的があったりなかったりあったとしても無理やりつくってみたり無いなりに見繕っている最中であったり、そもそもなかったりありえなかったり、それに向かい当てられたかったり、の総じて脱け殻の表情に、安っぽい言葉でいうところの哀愁、を感じたりしますがこれ紅葉の季節によく合います。
どこそこの寺の紅葉がきれいで人もたくさんいて元気が出た!というのとほぼ時間的に同時に繰り出されたとは信じられないような鬱屈した季節をよく感じているなぁと思います。
脱け殻みたいなおっちゃんにかける言葉はお互いないけど風の噂で清掃バイトのおっちゃんの訃報を、なぜかそのおっちゃんに面識のないウチの姉の口から聞いて、あぁそうか、そうだったか、となってから無目的にチャリを漕ぐとさりげなくそのおっちゃんが脳裡を掠めて、ほとんど無に近い軽薄な願望を思い浮かべたりもします。
どんな願望でなんで軽薄かといいますと、一緒にいっぺん競馬いってみたかったなぁ、とか飛田新地いってみたかったなぁ、とか同じくらいの年齢になってみたかったなぁ、とかそんなひとりよがりですし。そんなそんな気持ちを免罪符にこの街から唐突に逃げるように神戸は元町まで行って海を見ようとしたんだけど、結局競馬をして立呑屋で知らんおっちゃんとしゃべったりして楽しく一時を満喫していたら、ふとまた清掃バイトのおっちゃんを思い出してたりして、けれど実際的には何一つ叶わないし、それでもええけど気持ち悪がられてることも多いおっちゃんやったからしかしながら、女になにがわかんねんって言えるわけでもなくおっちゃんのことをわかってるわけでもないし、ただ、店を替えてコーヒーの値段を上げて彼と会えんくなっていたとしたら、いよいよ馬鹿馬鹿しいことをしていたなぁ自分は、と自戒したところでなにもかわらんけど、馬鹿馬鹿しくはなってきますね。
いや、多少もったいないことをした。
制約のない付き合いというのをそういう人とはしたかった、ちんたらした付き合いというか、ちんたらした動きというのは誰でもできることじゃないし、僕は好きだし、何をやったところで裏目に出るから更に裏目の場所で会いたいと思った。

K兄、お悔やみ申し上げます、という趣旨の文章をこしらえるつもりで海に行くつもりでもなかったし、実際海には行かんかったし、酔っぱらって元町の快活クラブに泊まってちんたらしただけでした。

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