短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

'Round Midnight

'Round Midnight

しゃがれた声を聞いたのはつい数時間前だった気もする、、
薄暗がりでよく見えないけれども水辺にまんべんなく浮かんでいるぼんぼりの灯りで周囲にも舟がいくつもたゆたっているのがわかったし、耳が慣れてくるにしたがって漠然としていたノイズがチンチロリンの弦の音色だったり、若い女の甲高い笑い声だったり、でんでん太鼓のリズムだったり、お酒の売り子の客引きだったり、結局のところはノイズに集積されたけれど皆それぞれいい具合に浮かれているようで陽気なようなことこの上ない。
でかい三角の編笠を冠った船頭らしき男は舳先を背にして猫背、両手で四角い発光体をいじくっていると見えたが、なんのことはないタブレットではないか、、
何してますのん、と問うと、
遠隔カメラ飛ばしてまんのや、と答えた。
今日は十五夜でようけ人がいてますさかい、上から撮ってます。人探しですわ。つきなみの嗜みいいましょうか、まぁ、ひとつのライフワークとも言えましょうかねぇ。この浮き舟といっしょ惰性で浮かんでおます。
へぇ、、
船頭もそうだけれど、ちらちら周囲を伺っていると、どうも時代錯誤というか、着物の人とかごてごてした洋装―ルノワールの絵みたいな―の人とか、江戸時代の火消しみたいな格好の人とか、あ、その火消しみたいな男が樽を載せた舟で近づいてきた、あんさん素面でっしゃろ、駆けつけ飲んどきなはれ、ほれ、と言って、でかい土焼きのひょうたん徳利を差し出してきたので、反射的に掴んだ。
お金どないしたらいいかな、円でええのん?
ピタパ持ってへん?
イコカならあるけど、、
ほんでええがな、何言うてまんねや。こちらが財布をかざすと、彼はすかさず黒い子機を当てて、ピピと音を出した。火消しは子機を一瞥し、ちょい足らんけどもまけたるわ、ひっくりかえらんようにな、と言い残し右手で櫂を返し旋回、つと去っていった。
兄さん、どこの酒蔵?と声を投げ掛けたら、どこでもかめしませんわ、と返ってきた。
亀?