短歌は馬車に乗って

スイートなエッセイです

禁煙解放曲

f:id:kon-fu:20191225202720j:image隅田川近くの病院にて、治験用の健康診断は正午に終わった。

治験参加希望者の面々はどなたも往々にして、(というのも十年くらい前に四谷で検査入院体験をしたことがあって、いわゆる健康な成人男性向けの投薬実験バイトなわけだが、)どこか浮世から気まずそうに浮いている感じで、グルーブが生まれる気配するない、それもそうか、ただ薬を飲んで、採血をして、あとはひたすら寝転がってマンガを読んでけっこうな謝礼金を貰うわけだから、いっぱしのいい大人たちが卑しさを覚えるのも、それはそれで自然だ。

寝てる暇があったら働けよっていう真っ盛りだし、互いが互いをどこか蔑んで見ているような気がせめぎあっている。

何が健康な成人男性だって感じだ。

僕らの世話をする看護師たちも、いわゆる一般病棟の看護師とは雰囲気がなんとなく違っていて、現実味にかけるというか、差し迫ったかんじがなくて、そもそもが患者の命を守るという使命感が薄いため、あこぎな金貸し業者の事務員みたく、世を拗ねているように見えなくもない。

ひょんなことからまっとうな筋道から逸れてしまったけれど、ひたすらに人口の少ない寒村を冷やかすしかない巡業旅団みたいだ。

さりとて、ここではそういういぶかしげな使命を遂行するいがいすべがない。

 

なんしか、それでなくても朝は低血圧ぎみなうえ、ニコチンも(一・五日に過ぎないが)摂取しておらず、なんも食べてないので、やせ細い看護師に受けた注射が妙に痛かった。「痺れてないですか」と訊ねられ、「なんともありません」と答えたが案外、痺れていたかもしれない。

 

交通費を三千円もらって、その足で昼飯時、コの字がたに行列のできたセブンイレブンで黄色いピースを買って夙と、外で吸うと胃の底にドスンと落ちるヤニの感触にくらり、灰色の街、芝浦は今日も今日とてたぶん平穏で、救急車が交差点の往来を押しのけて右折した。

 

その足で浅草線に揺られ寝落ちながら、蒲田までボロアパートの内覧に赴いて、蒲田温泉に浸かって帰ってきた。そんなクリスマスでした。